大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和50年(ワ)200号 判決

原告 横浜信用金庫

右代表者代表理事 永田康彦

右訴訟代理人弁護士 杉原尚五

同 杉原尚士

右訴訟復代理人弁護士 須々木永一

被告 更生会社日本高周波株式会社管財人 仁分百合人

右訴訟代理人弁護士 吉田豊

主文

1.原告が更生会社日本高周波株式会社に対し、金七六八万一六〇〇円の更生担保権及び金七六五万八八五四円の議決権を有することを確認する。

2.訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、申立

一、原告

主文同旨

二、被告

1.原告の請求を棄却する。

2.訴訟費用は原告の負担とする。

第二、主張

一、原告(請求原因)

1.横浜地方裁判所は、昭和四九年五月二二日日本高周波株式会社(以下更生会社という)について会社更生手続開始の決定(横浜地方裁判所昭和四九年(ミ)第一号)をなし、被告はその管財人である。

2.原告は、更生会社との間で昭和四六年一二月一〇日更生会社所有の別紙目録表示の各不動産について左記根抵当権の設定契約をなし、同目録表示の根抵当権設定登記を経由し、右開始決定時において根抵当権を有するものである。

(内訳)

(一)金四〇〇万円(届出議決権数同額)

但し、貸付年月日昭和四八年一二月五日、弁済期昭和四九年五月三一日、利率年八・七五パーセントの約定による貸付元金

(二)金八万一六〇〇円(届出議決権数同額)

但し、(一)記載の貸付元金に対する昭和四九年四月一日から同年五月二一日まで年一四・六パーセントの損害金

(三)金二一〇万円(届出議決権数金二〇九万四一〇三円)

但し、左記約束手形の割引手形債権

番号 第B七四五三九号

金額 二一〇万円

満期 昭和四九年五月三一日

支払地 横浜市

支払場所 株式会社協和銀行三ツ境支店

振出地 横浜市

振出日 昭和四九年一月二九日

振出人 株式会社双信電波製作所

受取人兼第一裏書人 更生会社

被裏書人兼所持人 原告

(四)金一五〇万円(届出議決権数金一四八万三一五一円)

但し、左記約束手形の割引手形債権

番号 第B七五〇一九号

金額 一五〇万円

満期 昭和四九年六月三〇日

支払地 横浜市

支払場所 株式会社協和銀行三ツ境支店

振出地 横浜市

振出日 昭和四九年二月二〇日

振出人 株式会社双信電波製作所

受取人兼第一裏書人 更生会社

被裏書人兼所持人 原告

元本極度額 一五〇〇万円

原因 昭和四六年一二月一〇日 証書貸付、手形貸付、手形割引契約の同日設定契約

損害金 年利一八・二五パーセント

債務者 更生会社

根抵当権者 原告

3.原告は更生会社に対し、昭和四九年五月二二日現在有していた前記根抵当権の被担保債権を、更生担保権として前記更生手続の債権届出期間中に左記のとおり横浜地方裁判所に届出た。

届出更生担保権 金七六八万一六〇〇円

届出議決権数 金七六五万八八五四円

4.被告は、債権調査期日たる昭和五〇年一月一七日原告の前項記載の届出更生担保権及び議決権額に対し、異議を述べた。

被告の異議は、原告の前記届出更生担保権が担保物件の評価額を超えるため右届出更生担保権及び議決権を一般の更生債権に繰入れるというにある。

5.被告における担保物件の評価額は、合計三億一四一八万四〇〇〇円(土地合計二億八九二四万二〇〇〇円、建物合計二四九四万二〇〇〇円)であるが、この評価額は著しく低額であり、特に別紙目録中一九、二〇に記載の土地の内社長社宅等の敷地部分約一二二三・六平方メートル(以下本件遊休地という)に関する評定は不合理である。

原告は、右担保物件の評価額は、合計四億五〇〇〇万円を下らないと評価するものであり、特に本件遊休地だけで金一億六四五万三二〇〇円と評価することができ、それだけで被告の財産評定よりも更に三六九五万三二〇〇円上回る結果となり、原告主張債権額をはるかに超えていることが明らかであるから、原告届出債権に対する前記被告の異議は理由がない。

二、被告

1.請求原因第1ないし4項の事実を認める。

2.同第5項の事実については、原告の評価をすべて争う。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、請求原因第1ないし4項の事実は、当事者間に争いがない。

二、本件において被告の異議は、専ら「原告の届出た抵当権付債権額が担保物件評価額を超えるため更生債権に繰入れる。」という点にあるのであるが、右「担保物件」(以下本件担保物件という)は、成立に争いのない乙第一号証及び鑑定人澤野順彦の鑑定の結果によれば、具体的には更生会社の本件工場、社宅、中山寮、寺山寮、白山寮ならびにその敷地に該るものであって、更生会社の企業設備の基礎となる不動産の殆どすべてを網羅し、したがって本件担保物件は原則として会社更生法一二四条の二にのっとり事業継続価額が評定されなければならないところ、その事業継続価額については、前出乙第一号証及び鑑定人澤野順彦鑑定の結果ならびに証人澤野順彦、同大河内一雄の各証言によれば、その点に関する被告依頼の株式会社大河内不動産鑑定事務所の鑑定結果と当審鑑定人澤野順彦の鑑定結果とが大きな開きを見せているほかそれぞれが立脚する見地をも異にしているので、そのいずれに依拠すべきか或いはそのいずれが客観的に適正な評価に近いかは、単純に抽象的理論として決し得るものでなく、企業としての更生会社の具体的業態を相当程度継続的に観察した上で基準時の評価を算出すべきところ、本件においてはこれを考査すべき具体的資料が極めて乏しい。

三、このように本件担保物件の大部分につき事業継続価額を評定すべきものであることは言うを俟たないところであるものの、しかし原告主張の「本件遊休地」については前出乙第一号証によってもこれを企業継続上必要不可欠なものではないものとして、立地上も工場敷地から部分的に切離し、売却処分することが可能かつ合理的であることが認められる。

すると本件担保物件中本件遊休地のみは例外的に「売却処分価格」によって財産の評定をなすべきものであると認められるが、その売却処分価格についても前記両鑑定人の意見は一致していない。しかしながら鑑定人澤野順彦の鑑定は、土地については単に二〇〇メートル程離れたところに所在する標準地の公示価格との比較(いわゆる規準価格)のみにとどまらず、取引事例による比較(いわゆる比準価格)と収益還元法による算出(いわゆる収益価格)をも考慮していること、同土地部分には自動車も走行できる道路が通じ既に社長用社宅と一般社宅二棟とが建って現況も宅地化されており、それらの建物については、単に市場性のない取毀し費用を要するマイナス物件として簡単に観察することなく、建築年月日や残存耐用年数等をも逐一考慮しているので、これらに徴すれば、少なくとも本件遊休地とその地上建物については、右澤野鑑定に依拠することの方がより適正であると考えられる。そして同鑑定によれば本件遊休地の評価額は合計九七九三万六九五三円、同地上の三棟の建物の評価額は合計五八七万円、以上総計一億三八〇万六九五三円と評定できることが認められる。他方、弁論の全趣旨ならびに原本の存在と成立に争いのない甲第四〇号証によれば、被告が原告に対し異議をのべた基礎となったものは前出乙第一号証(不動産鑑定評価書)であり、同号証では本件遊休地とその地上建物を併せて六七八一万五〇〇〇円であると評価していることが認められるから、前記澤野鑑定との間に三五九九万一九五三円の差があることとなる。ところで原告の更生担保権の届出は、前示のとおり七六八万一六〇〇円にすぎないから、本件遊休地とその地上建物を右のとおり適正に評定すれば、それだけで優に原告の更生担保権を全額弁済して余りあることとなる。

四、ところで会社更生法に基づく更生担保権確定の訴は、必ずしも更生担保権者たる原告の更生計画上の分け前の基準を確定するものではなく、会社更生法一四四条の更生担保権者表に記載すべき事項を確定し、更生手続参加の可否態様を決することにあるのであるから、確定した判決の既判力が拡張されるとはいえ、訴訟上の争点は専ら異議のある更生担保権の権利者と異議者間で相対的に異議の当否を解決すれば足りるものと解せられるので、前示認定に達した本件においては、先順位更生担保権者との関係を顧慮することなく、したがって本件担保物件中その余の財産について評定の増額可能性を判断するまでもなく、原告の請求を理由あるものとみて差支えないと考える。

五、よって、原告の請求を認容し、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安井章)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例